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まえがき
はじめに
いじめ被・加害者の予知発見とサポート
MHIサポート
予防(自学の習慣化)
事例
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まえがき
 1980年代、不登校児童・生徒の出現・増加は地方に波及し、学校医である筆者の所属した中学校においても不登校生徒の対応に迫られた。彼らの多くは、母親の心配もかえりみず自室にこもり、クラス担任教師や筆者の家庭訪問を拒否し、学校と家庭は、対応の術を失ったのである。筆者は、精神・心理研究の1つの方法である自記式質問紙による調査を児童・生徒に実施しようと計画した。精神・心理学の経験的質問ではなく、問題行動の要因を社会現象の中に位置づけ、彼らの家庭・学校生活面の質問とした。そして、心身相関と行動科学理論に基づき、質問の応答を因子分析の手法を用いて数値化し、彼らのライフスタイルとメンタルヘルスの理解を深めて、問題行動の予知発見、支援および予防につなげようとした。
 
 群馬県県央部の北群馬・渋川地区学校保健会に委員17名の「学習つまずき児童生徒に関する特別委員会」を設置し、1986から2年、不登校児童生徒の家庭・学校生活を調査した。その調査データを基本にして自記式質問紙、お元気ですかアンケート1)を開発し、1988年1月、当地区学校保健会に属する公立小中高校生と群馬大学附属中学生および東京都区部公立小中高校生総数約8,000人を対象とする調査を実施した。そのデータを地区、学校、学年、組および性別に集計し、1989年2月23日、当会は、渋川市多目的研修センターにおいて、研究協議会を開催し、地域別・小中高校別・男女別の生活の実態について協議した2)。次に、調査対象内の中学2年男女のデータに 因子分析3)と判別分析4),5)を適用し、児童生徒の主観的メンタルヘルスに関係する11の指数を収集することができるようにし、これを、メンタルヘルスインデックスthe Mental Health Index(MHI)と名づけた。この指数情報は、彼らの心を多面的に理解することを助け、かつ、不登校4)、いじめ被・加害5)を中心とする問題行動の予知・発見を可能にした。

 その後17年、年次・地域・性別の公立小・中・高校児童生徒を対象にして、MHIと面接との平行調査を実施し、MHI情報の判別的妥当性と現実的妥当性を検討・考察した。また、不登校を中心とする300余の問題行動者を予知・発見し、支援による行動の変化とMHI情報の変化とを検討・考察してMHIの有用性(限界)を検証した。

  MHI情報と面接情報の経年的変化の検討・考察から、以下のことが推測された。すなわち、家庭・学校の変化により、子どもたちは、家庭のぬくもりと学校への敬愛心を奪われ、心の休まる場所を失い、テレビ視聴やテレビゲームに浸って、うっ積する不満や不安を紛らわせた。この継続は感情の発達に歪みをもたらし、内気、慰め合い、学校嫌い、無気力、無関心、落ち込み、不快、不安からうつ傾向となり、家庭・学校における些細なトラブルから、暴力、不登校、いじめ被・加害、自殺、他殺などの行動をとるようにもなった。

 MHIにおいて、彼らは、「学校は面白い」指数と「友だちに関る3指数」の1つと正の相関を示す「慰め合い社会」を浸透・拡大させ、遅寝になり、朝起きられなく、頭痛を訴えた。「心身快調感」、「学校関係の精神安定感」、「友だち関係の精神安定感」という3つのMHIが45以下のタイプは、いじめ加害行動をとる傾向が高かった。そして、いじめ加害行動の矛先を、「慰め合い社会」の1個人へ向けると、その個人は、「友達関係の精神安定感」と「友達関係の親和感」が45以下となり、いじめ被害者となった。

 「慰め合い社会」においては、些細なトラブルにより、“うつ傾向”となりいじめ被・加害を引き起こす、また、“うつ・パニック障害傾向”となり不登校をひき起こす、という2つの現象を観察した。両者の初期行動は、その子なりに、大人とのコミュニケーション障害を示すので、子どもの身になって接していると予知できると思われた。

 いじめの発生は、慰め合いグループの中の1人が、明らかな理由もなく、不特定の個人に向って攻撃を開始することから起きる。ささいなことであるにもかかわらず、向けられた個人が、発生者に満足させる行動をとらないとき、グループは、トラブルの向けられた個人をいじめ始める。いじめの構造が容易に成立する理由は、グループの結びつきが慰め合いであるため、いじめ被害者を敵にして、いじめ加害組に属した方が、慰め合いがより強固になるからである。しかし、この慰め合いグループの絆は薄弱であり、離合集散する。離合集散がいじめの発生につながるから、誰でも、いじめ被・加害になるのである。慰め合いの蔓延した子ども社会は、弱者を助ける正義感や成員性から自発する筈の思いやりは極めて希薄である。現今の小・中・高校において、いじめ被害者の「かた」をもつ者は出現しないのである。

 いじめ加害グループから発生するいじめ加害行動は、陰湿、多種多様、計画的で、潜行し、いじめ被害者の人格を無視し、有無をいわせず、不安、恐怖から絶望へ落し入れる。他者に発見されにくく、長期にわたるのである。そのためときに、いじめ被害者を自殺又は他殺に至らしめるのである。
 
 
 筆者の経験は、1957年からの健康診査の事後処置、予防接種、学校伝染病などの管理・指導であり、健康の保持増進という目的を達成し有効であった。これらは、学校・家庭の管理が中心で本人の健康への理解と意志の関与は少なかった。1970年からの集団指導について、体位体力のアンバランス、怪我、肥満などの健康行動は、指導の終了とともに忘れられた。喫煙、シンナー遊び、非行および校内暴力の「指導による改善」を判定することは困難であった。X中学校の集団指導と個別指導について、集団指導は、1979年度の1,2学期に行われた。学校ぎらいの改善を意図し、遅寝・遅起き・朝食なし登校という3課題について、クラス単位に行われた指導による改善割合は、指導直後60〜80%であったが2カ月後には6〜14%に低下し、学校嫌いの改善につながらなかった。個別指導は1979〜1981年、3年度にわたり行われた。結果について、いじめ被害のうつ状態は悪化し、不登校傾向と不登校は無効であり、面接の機会をつかむことも困難であるケースを多く経験した。

 管理とは、その目標により近い状態を保つようにとりしきることであり、指導とは、特定の事項について、明確な理由の下に指導者が被指導者に尊重して取り扱われることを期待してなされる明示的な行為をいう。すなわち、目的に向って教え導く行為をいい、受ける力を前提とする。受け入れる力を阻害している因子は排除して行われる。管理・指導は上意下達的であり支配的である。
 
 カウンセリングは、1982年から、不登校傾向といじめ被害に対し、感情重視療法、非指示的療法、論理情動療法、ゲシュタルト療法など人間中心アプローチを行ったが、問題行動の改善は一時的であり、習慣化までには至らなかった。

 カウンセリングとは、訓練を受けた専門家が、言語的手段を用いて、クライエントのもっている力と、生きようとする意欲を用いて、問題を解決しようとする方法である。対象は、発達や人間関係の問題を悩んでいる人であり、心理的問題や精神医学的な障害への治療を主な目的とする心理療法(精神療法)とは異なる。米国においては、心理療法Psychotherapyとカウンセリングは区別されているが、日本においては両者を混同して使っている心理学者も多い。
 
 MHIサポートは、自ら生きる力を学び、自学の習慣を獲得し、生涯発達をどう実現するかが重視される。サポーターは、被支援者のメンタルヘルスの発達を理解し、一般心理療法、小精神療法、自律訓練法、音楽療法を中心に、精神分析、行動療法、来談者中心療法、論理情動療法、ゲシュタルト療法、交流分析、絵画療法、森田療法(不眠に適応)などを活用して、被支援者が自ら安心、共感、肯定的自己イメージ、信頼、意欲、自信、尊敬とういうメンタルヘルスを学び、自学を習慣化し生涯発達の基盤を獲得するサポートである。

 1989年からのMHIと面談の平行調査から発見された問題行動者は、程度の差はあるが、うつ的であることが明らかになった。心身不調と無気力という生命力低下を内在する“うつ”による問題行動の立ち直りには、受ける力を前提に置く指導ではなく、持っている力と生きようとする意欲によるカウンセリングでもない、「自ら生きる力を獲得するサポート」、ここでは、MHIサポートが必要であると考えた。

 MHIサポートは、17年間の臨床における、不登校傾向・不登校サポート37例の改善26例、いじめ被害サポート15例の改善12例、および各失敗例をも含めて検討・考察し、サポートを統合した。そして、不登校、いじめ被・加害などの予知・発見を可能にしたMHI調査と自ら生きる力を獲得するサポートを組み合わせて、MHIサポートシステムとした。サポートを行う対象と場から、個人のMHIサポート、家庭のMHIサポート、学校のMHIサポートおよび地域のMHIサポートとした。

 MHIサポートは、教師や親が、児童・生徒の心になれるぐらいに彼らを理解(受容)し、支持・保証する中において、彼らは教師や親に共感し、自ら生きる力を学び、家庭やクラスをなごやかにし、積極的に授業に取り組むようになったのである。
 
  不登校やいじめは出現してしまうと、立ち直るには、相当長い期間がかかり、どこで対応するのかも明らかでない。いじめ被害者1人の出現による学校の加重はたいへんなものである。そして、いじめや不登校を中心とする問題行動のエピソードは、ほとんど、学校・家庭の突然の出来事である。教師は余裕があれば、問題行動を予知できると言われるが、これもたいへんなことである。

 17年にわたる筆者の経験から、問題行動の解決は予防にある、という考えに到達した。そのためには、毎年全校児童生徒のMHI調査と、必要に応じて個人のMHI調査を随時行い、個人・集団のメンタルヘルスを理解し問題行動を予知し、自ら生きる力を獲得し、自己同一性、モラルと自学の習慣を学ぶサポートを行うのである。この継続は、社会の健全・健康に寄与すると考える。

 本書の出版を機にMHIサポートシステムの適正な理解が進み、学校・家庭・地域において活用され、新しい応用が開発されれば私にとってこれほど嬉しいことはない。今後のご叱正とご教示を切にお願いする。
 
平成19(2007)年4月

吉岡町立明治小学校学校保健委員会顧問
医療法人社団佐藤医院名誉院長
佐藤昭三